好事家の世迷言。(続)

調べたがり屋の生存日記。gooブログから引っ越し中。

星新一ショートショート再読。(その56)

『証人』
新潮文庫、番号6、『ようこそ地球さん』収録。

途中までは本格ミステリだったはずの話が、脱線して遠くへ吹っ飛んでいく。

テーマになっているのが、掲載当時は最新メディアだっただろう、テレビの業界。
激増する番組数に対し、現場の機材である録画テープはとても貴重で、どんどん上書きされていく。
当然、一般人が録画する機器も無い。

世の情報は、量が多くなるほど、その一つ一つの価値は軽くなっていく。
掲載当時の状況で、既にこの結論に至っているわけだ。

翻って現在。
全世界の人全員が全世界の全瞬間を生中継して配信し、それを誰でも保存できる。
テレビ番組なんて、ほんの一言で炎上事件が引き起こされる。
そもそも今の番組アーカイブは、発信側が全て保管している。

だから今時なら本作は、YouTubeか、それともインスタのストーリーに一瞬だけ写ってた画像を探す展開になるか。
それなら探しても見つからないってオチに……いや、ならないな。
絶対にいつかのどこかの誰かがキャプチャしてる。
そして、例えば事件そのものが風化した頃、
全く別の出来事と絡んで出てくる。
よりによって今かよ、遅いよ、今更まずいよとなる時に発掘される。
そんでバズって炎上して、すぐ消える。
それが今の世。

それから。
普通の人ならあるだろう悩みを、芸能人は持ってない、だから芸能人は悩んでない……と述べられているのは、別の意味で時代を感じる。
普通の人と違うから持つ悩みも、普通の人と同じ悩みも、誰もみんな持ってるんだ。
本作の女優さんだって、辛い事あったかもしれないんだよな。

それでは。また次回。