茂る葦(あし)の間を進んでいた時だった。
右の方から、シュウシュウという例の鳴き声が聞こえてきた。
その直後に飛びだしてきたのはモチロン、大蛇。
翼をもった巨大な紫の蛇が、目にも止まらぬ速さで飛び回っている。
「見るな!」
突然エッジが、ぼくの頭を手で下に押しやった。
「時蛇の魔力は甚大だ。一度魅入られたが最後だぞ」
「そうなの!?」
それならせめて、銀蛇の指輪だけでもつきつけてみようか。
「我は七大蛇の時蛇なり。我が主はマンパンでは変装しておられるだろう」
そんな台詞を言わせている間に、ぼくはもう一度呪文書を読み返していた。
何度も繰り返し、文字の癖を拾ってみる。
………………………………あ。
そうか! 変に難しく考えすぎてた!
「LIX――! 59番の項目を読め!」(※反転させて下さい)
読み取った、禁呪とさえ言える語を、ぼくは時蛇に投げつけた。
それから顔を上げ、改めて時蛇の方を見た。
魔力を失った時蛇は、かろうじて空に浮いているだけの、単に大きな蛇になっていた。
ぼくは、すかさず戦輪(チャクラム)を放った。
空から落ちてくる蛇を、エッジの長剣が刺し貫く。
そこにぼくは、樫の杖を力一杯振り下ろす。
あわれ時蛇は、悲鳴を上げて消えていった。