『生活維持省』
新潮文庫、番号14、『ボッコちゃん』収録。
以前、似たモチーフの漫画やドラマが発表されて話題になった作品。
逆に言えば、世にある物語の源流は星作品に行き着くという好例でもある。
この話の世界には、私たちの世界にあるような不幸の大半が消えている。
たった一つ、生活維持省の成す「或る行為」だけを除いて。
星作品は、読み上げやすい平易な、言うなれば美しい文体が基本だが、
この話の文章はとりわけ爽やかにして清らかだ。
書こうと思えばいくらでも残酷に出来るだろう場面には、アブの羽音と静寂と煙とが配される。脳裏にそのまま映像が浮かぶ。
ただ、この話、令和21世紀の今読むと設定が古い事も否めない。
収録されている『ボッコちゃん』の初版は1971年。
『生活維持省』の初出はもっと前という計算になる。
この時代の日本は、とにかく人口爆発問題が取り沙汰されていた。
が、後の世になり、状況は逆転。
それでは。また次回。