扉を開けたら、やっぱり居た。めそめそ泣いてるファレン・ワイド。
さっきは慰めてあげたけど、もう優しくする理由はない。
「もう騙されないぞ。ファレン・ワイド。いや……マンパンの魔法使い!」
その瞬間、ファレン・ワイドの顔つきが変わった。
「なんと……・。まさかそこまで調べたとは。見上げたものよ。
探し物の『諸王の冠』ならココにあるぞ。ほうびとして見せてやろう」
ファレン・ワイドは、黄金色の王冠を取り出して、机の上に置いた。
美しかった。簡単な作りの王冠なのに。本当にキレイだった。
そんな風に冠に目を奪われたのがマズかった。
ファレン・ワイドは、霧のような煙のような、黒い何かに変わりつつあった。
雄牛のようなその顔は、人間じゃない。冥府の魔王そのものだ。
「……あ………………あああッ!」
おぞましい瘴気に満ちていく中で、聞こえた悲鳴に顔を向けて、絶句した。
エッジが、くずおれている。頭を抱えて、震えている。
「エッジ!? 大丈夫か!? エッジ!?」
「う……あ……あああああ!!」
吼えて悶えるエッジに駆け寄り、その肩をつかもうとした。
だけど。つかもうとしたけど。つかめなかった。
見えているのに。触れない。
見えている?……いや、それも少し、透けて……?
激しく混乱するぼくに、魔王の言葉がトドメを差した。
「若造。我に戦いを挑んだ、その勇気は褒めてやろう。
だが貴様の場合は、蛮勇というべきだ。
まさかこの我に、たった一人で立ち向かおうとするとはな!」
たったひとり。
そうハッキリと言われたら、もう、認めるしかなかった。
ああ、そうだよ。ぼく自身、うすうす分かってたんだ。この旅の途中から。
――ぼくの幼なじみの姿が、ぼくにしか見えないんだっていう事は――。