本棚の前にいると時間を忘れる。
そしてあたしは夢中になると、大事な事を忘れてしまう。
あたしは今、敵の砦に潜入中なんだと思い出したのは、
背中越しにどよめきが聞こえた時だった。
慌てて振り返ると、オークっぽい魔物が何人も次々と図書室に入って来ていた。
その中の、一番背の高い奴が、あたしの顔に向けてプーッと息を吹きかけた。
わ、息くさっ!じゃない、これは、催眠系の薬の臭い……!
あたしは敢えなく、目の前を暗くして倒れてしまった。
次に起きると、そこは岩を刻んで作られた小部屋だった。
窓や扉には鉄格子。牢屋だ。
あーあ、とうとうやっちゃった……。自己嫌悪。
仕方なく、隅っこの藁布団で1時間くらい休んでいたら、
灰色のトカゲっぽい魔物が食器の載ったお盆を持って階段を下りてきた。
頭が二つあって、尻尾が長い。もしかして、アレがカラコルム?
カラコルムは、扉の開口部からお盆を差し出してきた。
具の入ったスープとパン。
匂いを嗅いだら、おなかが鳴った。
そういえば、砦に入ってから食事してなかったっけ。
体力回復の魔法もあるけど、あれだとおなかは楽にならないのよね。
あたしはひとまず、目の前のごはんを味わう事にした。