好事家の世迷言。(続)

調べたがり屋の生存日記。gooブログから引っ越し中。

星新一ショートショート再読。(その26)

『ゆきとどいた生活』
新潮文庫、番号26、『ボッコちゃん』収録。

起床から出勤まで全てオートメーションで処理される未来社会での、テール氏の生活。
(関係ないが、今回もまた変わった名前)

星新一氏がSF作家として抜きん出た存在である事は明白だが、事によっては偉大な推理作家になった可能性もあるかもしれない。

本作は、SFであると同時に、叙述トリックを駆使したミステリとしても成り立つ。
初読の読み流しでは見落とすようにさりげなく書かれているのが誠に素晴らしい。

本作でのテール氏は、自発的な行動を一切取らない。
ベッドから起きないし、イスから立たないし、ボタンも押さない。
が、そんな煩わしい行為をしなくて良いのだろうと誤読させる。
「お眠いでしょうが」と、「おすみでしたら」と、機械が常に先回りして動いていく。
服を脱がせて着替えさせるまでカンペキにこなす《手》の性能が良すぎである。
貴族だって、服の袖くらい自分から通すだろうに、その必要さえ無いのだ。

かくて、この上なく安全に会社まで届けられたテール氏の顛末は、面と向かって挨拶した同僚によって明かされる。
何もかもしてあげられる完全無欠の存在にも、してあげられない事があるのだと。
きっとこの機械の製造元、この事件をきっかけに、バイタルチェック機能付けたんだろうな。

それでは。また次回。